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子どものパニック障害(PD)の治療について
子どものパニック障害(PD)の治療について
PDの治療は心理教育,認知行動療法,学校コンサルテーション,家族療法,力動的精神療法,薬物療法,などが有効であり,治療抵抗性のケースでは複合的なアプローチが必要です。しかし子どものPDの治療では,力動的精神療法や家族療法に関するエビデンスはなく,認知行動療法に関してもPDを含む不安障害の子どもを対象とした臨床試験での有効性が証明されているのみです。一方,薬物療法のエビデンスは蓄積されつつあり,子どものPDの短期的な治療において選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors: SSRI)の有効性が証明されています。SSRIは不安障害によって心理療法に参加することができないとき,あるいは心理療法が部分的な効果しか得られないときに有効であると考えられています。どちらにしてもまず優先的に行うべきことは子ども,両親,学校の担当教師そしてスクールカウンセラーに対する適切な心理教育であり,そこでPDの特徴,臨床的な症状,症状発現時の対応,そして治療についての説明を行い,その上で子どもの状態に合わせてその後の治療を選択していくべきだと思います。以下,個々の治療について解説します。
- 心理療法
心理療法として,認知行動療法(cognitive-behavioral therapy: CBT),力動的精神療法,家族療法,などが子どものPDに対して行われており有効性が認められています。子どもの不安障害についてもっとも研究されている心理療法はCBTです。CBTは認知,行動,情動の3つの要素から構成されており,不安を持続させる非現実的な思考や予測,あるいは結果的に不安を惹起する状況を避けるような不適切な行動,を治療の標的にしています。典型的なCBTではまず子どもと家族に対して心理教育を行います。心理教育では不安が発生した場合の認知,身体症状,行動について理解を深め,その上で身体症状のコントロールの仕方(深呼吸,リラクゼーショントレーニング)について教育します。さらに,恐怖の対象に対する誤った認知を修正し,不安を惹起する対象への暴露を経験させます。欧米ではいくつものマニュアル化されたCBTが開発されており,PDを含む不安障害の子どもを対象とした無作為化比較対象試験においてプラセボ群と比較して効果を認めています。また,薬物療法を同時に行うことで心理療法の有効性を高める可能性があり,両者の治療を併用することが推奨されています。しかし, 子どものPDのみをターゲットにしたCBTは行われておらず,今後さらなる臨床研究が必要です。
- 薬物療法
薬理学的な治療では,成人のPDにおいては有効性がはっきりと示されており,無作為化試験においてSSRIや三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressant: TCA)の治療の有効性が証明されています。しかし,小児・思春期のPDを対象とした無作為化試験は行われておらず,非無作為化試験でのみSSRIの有効性が証明されています。オープン研究では12人の児童のPDの患者に対しSSRIを投与したところ,75%の児童がCGI-Sスコアの改善を認め,67%がPDの診断基準を満たしていませんでした。また,別の研究ではPDを含むいくつかの不安障害に対し6-9週の期間fluoxetineを投与し有効性を検討しています。その結果,対象の16人のうち5人がPDの診断であり,その内の3/5はfluoxetineの治療にて症状の改善を認めています。さらに,18人の小児・思春期のPDの外来患者に対しparoxetine(5-40mg/日)の投与を行い,CGI-Sスコアで評価したところ83%が改善を認めていました。この研究ではParoxetineは忍容性が非常に高く,アカシジアや脱抑制は認められませんでした。その他の薬剤ではオープン試験においてalprazolam,clonazepam,TCA(imipramine ,desimipramine)の有効性が報告されています。
成人での無作為化試験の結果や子どもでのオープン研究の結果から,現在のところ小児・思春期のPDの薬物療法ではSSRIが第一選択薬であるとされています。しかし,SSRIの治療の初期には症状が増悪する可能性があるため低容量から開始するべきです。また,子どものPDにおいてbenzodiazepine系誘導体の有効性を示すデータはほとんどなく,何よりも依存性の問題を考慮すると,benzodiazepine系誘導体は子どものPDの治療薬として適切でないと考えられます。
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