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ADHDの内服治療について雑感
私がまだ精神科医局に入ったばかりのころ、ADHDに対する内服は保険適応になっているものは日本には一つもない状態でした。
所属していた大学病院では、生育歴整理して精神療法的なアプローチしたり、母子関係調整したり、色んなトレーニングしたり、療育したり、環境調整したり、などできることはやっていましたが、やはり不注意症状自体は生来のものなので、一番邪魔している症状は変わらないなかでの戦いでした。かなり苦戦していたと思います。
そんな戦いを数年していたら、2014年5月にコンサータがADHDに保険適応となり使用可能となりました。
内服することが唯一の答えではないと思いますが、やはり生まれてから一度も不注意症状がない状態を感覚的に体感していない人が、内服が効いている間だけとはいえ、不注意が和らいでいる状態を感じることができることは、画期的なことだと思いました。
なぜかというと、主訴として不注意症状が原因となっていそうなこと(忘れっぽい、なくしものが多い、優先順位がつけれれない、締め切り守れない、時間管理ができない、整理整頓ができない、同時作業ができない、集中力が続かない、なんかボーとする、などなど)を認識することはできていても、本人はずっと本人なわけですから、不注意症状というのがどれで、どのくらいそれが自分の日常を邪魔しているかは、その症状がとれないと認識することができないからです。これまでずっと本人にへばりついていて離れている状態がないからです。
気合や努力が足りないからできない、と思っている人もほんとに多かったなと思います。そして他人からもそのように評価されることがあるので、そうなると自己評価は低くなってしまいます。また子どもであれば、養育者の方は、自分の育て方が悪いのか、と自分を責めてしまっていることも結構ありました。
不注意症状がある程度改善したとして、そして実際できなかったことができるようになった時、主訴が良くなること以外にもいいことはたくさんありました。
努力や気合が足りないと本人が思っていたことや、養育者が自分の育て方が原因だったのでは、というようなことの一部はADHD症状に原因を一部渡すことができます。
そうすると、ちょっと肩の荷がおりた、みたいな感覚を感じていたと思います。自己評価が少しでも改善するきっかけになっている方もいました。
そしてたとえ内服で症状が一時的に改善しているとはいえ、その時に獲得した経験、知識、自信、良好な人間関係、みたいなものは、決して消えるものではないからです。
むしろ蓄積していけば、それは仮ではなく、その方の本当の力となっていくはずです。
というわけで、内服は漫然と使うのはよくない部分もあるかなと思いますが、目的を明確にして使うのであれば、人生を変えるきっかけにできる可能性はあるのではないかと思います。
今は、ADHDの内服も種類が増えて選択肢は多くなってきました。
1剤もなかった時のことを、もう忘れてしまいそうです。
薬も人が作ったものです。世界中でとんでもなく多くの人がかかわって、一つの新薬は生まれます。
それを使いこなすことは悪いことではなく、それで自分をいい意味で変えることができるのであれば、むしろ人の力一つじゃないかと思っています。
加藤晃司
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