2025.12.04ブログ
ADHD症状のために過食がコントロールできないことはあるか?――神奈川県厚木市・児童精神科専門クリニック きもとメンタルクリニック――
ADHD症状のために過食がコントロールできないことはあるか?
――神奈川県厚木市・児童精神科専門クリニック きもとメンタルクリニック――
「食べ過ぎてしまう」「お腹はいっぱいなのに、やめられない」
こうしたお悩みは、大人だけでなくお子さんや思春期の方にもよくみられます。
その中には、ADHD(注意欠如・多動症)の症状が背景にあり、過食のコントロールが難しくなっているケースも少なくありません。ここでは、保護者の方にも分かりやすいように、
なぜADHDで「食べ過ぎ」が起こりやすいのか
「甘え」や「意志の弱さ」とは違うポイント
家庭でできる工夫
医療機関に相談した方がよいサイン
について、丁寧に説明します。
1. ADHDとは?まずは基本から
ADHD(注意欠如・多動症)は、以下のような特徴がみられる発達特性です。
注意がそれやすい・集中が続きにくい(不注意)
落ち着きがなくじっとしていられない(多動性)
思いついた行動をすぐ実行してしまう(衝動性)
これらの特徴は「性格」ではなく、**脳の働き方のクセ(発達特性)**によるものです。
そのため、叱ったり根性論で改善を目指しても、お子さん自身がつらくなってしまうことが多くあります。
2. なぜADHDで「過食」や「やめられない食べ方」が起こりやすいのか?
ADHDのお子さんや大人の方では、次のような理由から「食べること」がコントロールしにくくなることがあります。
2-1. 衝動性:目の前の食べ物に手が伸びてしまう
ADHDの特徴の一つに**「衝動性」**があります。
「目の前にお菓子があると、とりあえず食べてしまう」
「今はやめておこう」と頭ではわかっていても、気づいたら食べ始めている
といった行動は、我慢ができない「性格」ではなく、衝動性のコントロールが難しい特性によるものです。
2-2. 注意の散りやすさ:満腹感のサインに気づきにくい
食事中にテレビ・スマホ・ゲームなど、刺激的なものが周りにあると、「お腹いっぱいになってきた」という体のサインに注意が向きにくくなることがあります。
気づいたらお皿が空っぽになっていた
満腹を感じた時には、すでにかなり食べ過ぎていた
ADHDでは「今、自分の体がどう感じているか」に注意を向け続けること自体が難しいため、結果として過食につながりやすくなります。
2-3. 感情調整の難しさ:ストレス・退屈の”気晴らし”としての食べ過ぎ
ADHDのお子さんは、学校や家庭でさまざまなストレスを抱えやすいと言われています。
叱られることが多い
うまくいかない経験が積み重なる
友達関係でトラブルが起きやすい
こうした 「しんどさ」「モヤモヤ」 を抱えたときに、
「何か食べることで、気分が楽になる気がする」
「退屈だから、とりあえずお菓子」
といった形で、食べることが気分転換の手段になりやすいことがあります。
一時的には楽になりますが、「太ってきた」「また食べ過ぎてしまった」という自己嫌悪から、さらにストレスが強まり、**「ストレス → 過食 → 落ち込み → また過食」**という悪循環に陥ることもあります。
2-4. 報酬系の特性:”すぐに得られる快感”を求めてしまう
ADHDの研究では、**「すぐに得られる報酬(快感)に強く引っぱられやすい」**という脳の傾向があることが分かっています。
お菓子や甘い飲み物などは、
手軽に手に入る
食べた瞬間においしさ・快感が得られる
という、まさに「すぐに手に入る報酬」です。
そのため、ADHD特性のある方は、「長期的な健康」よりも「今、この瞬間の気持ちよさ」に意識が向きやすく、結果として過食が続いてしまうことがあります。
3. 「甘え」や「意志の弱さ」ではありません
保護者の方からは、
「本人の甘えではないか」
「もっと我慢を教えるべきか」
「叱ればやめられるのでは?」
といったご相談をいただくことがあります。
しかし、ADHDに伴う過食は、
「頭ではやめたいと思っているのに、うまくブレーキが効かない状態」
であることが多く、本人の努力や性格だけの問題ではありません。
もちろん、生活習慣やしつけも大切ですが、
ADHDという発達特性
感情の調整の難しさ
自己肯定感の低下
など、いくつかの要因が重なって初めて見えてくる「症状の一つ」と考えた方が理解しやすくなります。
4. 家庭でできる工夫
ADHDの特性に配慮しながら、過食を少しずつコントロールしやすくするための工夫をいくつかご紹介します。
4-1. 「量」ではなく「環境」を工夫する
「食べ過ぎないようにしなさい!」と注意するよりも、環境を変える方が効果的な場合が多いです。
大袋のお菓子は小分けにしておく
目につくところにお菓子を置かない
食事中はテレビやスマホを消し、「食べることだけ」に集中しやすい環境をつくる
食器を小さめにして、自然と量が抑えられるようにする
「我慢させる」よりも、衝動的に食べにくい環境を整えることがポイントです。
4-2. 「完璧を目指さない」目標設定
ADHDのお子さんに「絶対に間食禁止」「二度とおかわりしない」は、ハードルが高く挫折しやすい目標です。
まずは「毎日3回のおやつ」を「1日1~2回まで」にする
「袋ごと」ではなく「お皿に盛った分だけ」を食べる
甘い飲み物を、少しずつお茶や水に置き換えていく
など、達成できた経験が積み重なるような、小さなステップから始めることが大切です。
4-3. 「ダメ出し」より「できたこと探し」
過食に悩むお子さんは、すでに「自分はダメだ」と感じていることが多くあります。
そのため、
「また食べたの!」
「どうして我慢できないの!」
という言葉は、さらに自己肯定感を下げてしまいます。
一方で、
今日はおやつの量を自分で決められたね
昨日よりゆっくり食べられたね
途中で「もうやめる」と言えたのはすごいね
など、少しでもできた点を見つけて認める声かけが、長期的な改善につながります。
4-4. 食べる以外の「ストレス発散・気分転換」を一緒に探す
食べることが「唯一の楽しみ・気分転換」になっている場合、
好きなイラストや工作
音楽を聴く・楽器を演奏する
軽い運動や散歩
ペットと遊ぶ
など、「食べる以外の楽しみ」を一緒に見つけていくことも大切です。
これは時間のかかる取り組みですが、過食の悪循環から抜け出すうえで、大きな意味を持ちます。
5. 医療機関への相談を考えた方がよいサイン
次のような場合は、ご家庭だけで抱え込まず、児童精神科や小児科など専門医療機関への相談をおすすめします。
過食と嘔吐をくり返している
短期間で急激な体重増加・減少がある
「食べること」に強い罪悪感や自己嫌悪を訴える
「もう生きていたくない」「自分なんていない方がいい」などの発言がある
学校や家庭生活にも支障が出てきている(遅刻・欠席の増加、対人トラブルなど)
ADHD以外にも、
うつ状態
不安症
摂食障害(過食症など)
が重なっている場合もあり、早めに専門家と一緒に状態を整理することが大切です。
6. ADHDに対する治療が、過食にも良い影響を与えることがあります
ADHDに対しては、
環境調整・行動療法
学校や家庭でのサポート
必要に応じた薬物療法
などを組み合わせて治療を行います。
ADHDの症状(衝動性・不注意・感情の揺れ)が少し落ち着くことで、
「食べ過ぎそうなときに、少し立ち止まれる」
「お腹いっぱいになってきたことに気づきやすくなる」
「ストレスをため込みにくくなる」
といった形で、結果的に過食が和らいでいくケースもあります。
ただし、「薬を飲んだからすぐに過食がなくなる」という単純なものではなく、
環境調整
ご家族の理解と関わり方
本人の自己理解・自己肯定感の回復
などと組み合わせて、少しずつ変化を積み重ねていくイメージが近いです。
7. まとめ:ADHDと過食は、つながっていることがあります
ADHDのあるお子さん・大人の方では、
衝動性
注意の散りやすさ
感情の調整の難しさ
「すぐに得られる快感」を求めやすい脳の特性
などが重なり、過食や「やめられない食べ方」が起こりやすくなることがあります。
これは「甘え」や「意志の弱さ」ではなく、発達特性と心の状態が組み合わさった結果として表に出ている症状の一つです。
家庭では、
環境を整える
小さな目標設定
できたことを認める声かけ
食べる以外の楽しみ・気分転換を一緒に探す
といった関わりが、長期的な改善につながります。
つらさが強い場合や、嘔吐・急な体重変化・強い自己否定などが見られる場合は、早めに専門医療機関へご相談ください。
お子さんの「食べ過ぎ」「やめられない食べ方」は、
保護者の方にとっても、ご本人にとっても、とても心配でつらい問題だと思います。
「怒るべきか、見守るべきか分からない」
「病気なのか、甘えなのか判断がつかない」
そんな迷いをお一人で抱え込まず、気になる段階で、どうぞ一度ご相談ください。
お子さんの発達特性や心の状態を丁寧に評価し、ご家庭と一緒に、無理のない対策を考えていきます。



