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虐待が子どもの脳に与える影響とは——神経科学的なメカニズムと回復の可能性を和光医院(名古屋市千種区・児童精神科)が詳しく解説
虐待が子どもの脳に与える影響とは——神経科学的なメカニズムと回復の可能性を和光医院(名古屋市千種区・児童精神科)が詳しく解説
「子どもへの虐待が脳に影響を与えるって本当ですか?」「どんな影響が残るのか知りたい」「虐待を受けた子どもは回復できますか?」——虐待が子どもの発達に深刻な影響をもたらすことは、近年の脳科学・神経科学の研究によって明確に示されています。虐待は「心の傷」にとどまらず、脳の構造・機能を物理的に変化させます。しかしそれは「元に戻れない」ということを意味しません。正しい理解と適切な支援が、子どもの脳の回復を可能にします。名古屋市千種区の児童精神科専門クリニック・和光医院が、虐待が子どもの脳に与える影響を脳科学的に解説し、回復のための支援の方向性についてわかりやすく詳しく解説します。
目次
- 虐待とは何か——4つのタイプと定義
- 子どもの脳は「経験」によって形成される——神経可塑性の基本
- 慢性的なストレスが脳に与える影響——毒性ストレス(Toxic Stress)
- 虐待が特に影響を与える脳の部位
- 【脳への影響①】扁桃体——恐怖・不安の過剰反応
- 【脳への影響②】海馬——記憶・学習への影響
- 【脳への影響③】前頭前野——実行機能・感情調節への影響
- 【脳への影響④】脳梁——左右の脳の連携への影響
- 【脳への影響⑤】HPA軸——ストレスホルモン系の変化
- 虐待のタイプ別に異なる脳への影響
- 虐待が引き起こす精神疾患・発達への影響
- 虐待を受けた子どもの行動・症状のパターン
- 「愛着」と脳——安全な関係が脳を育てる
- 脳は回復できるのか——神経可塑性と回復の可能性
- 回復を支える治療・支援アプローチ
- 保護者・支援者ができること
- よくある質問(FAQ)
- 和光医院での診療について
1. 虐待とは何か——4つのタイプと定義
日本の児童虐待防止法では、虐待を以下の4種類に分類しています。
身体的虐待
殴る・蹴る・叩く・投げ落とす・激しく揺さぶる・熱湯をかける・布団蒸しにする・タバコの火を当てるなど、身体に外傷が生じる(または生じる恐れのある)暴行を加えること。
性的虐待
子どもに対するわいせつな行為や、子どもにわいせつな行為をさせること。
ネグレクト(育児放棄)
食事を与えない・適切な衣服を着せない・病気になっても医療機関に連れて行かない・長時間放置する・学校に行かせないなど、子どもの基本的ニーズを満たさないこと。
**心理的ネグレクト(情緒的ネグレクト)**も含まれます:子どもに対して無関心・反応しない・愛情を示さないなど、情緒的なニーズを無視すること。
心理的虐待
言葉による脅し・無視・拒否・著しい叱責・子どものきょうだい間で差別的な扱いをする・子どもの目の前で配偶者やきょうだいに暴力を振るう(面前DV)。
重要な認識
**虐待は「特別な悪意ある親だけが行うもの」ではありません。**経済的困窮・社会的孤立・精神的健康の問題・育児ストレスの蓄積などが複合的に関与して生じることが多く、社会全体での支援体制が必要です。また「面前DV(DVの目撃)」も心理的虐待として認定されており、子どもへの深刻な影響をもたらします。
2. 子どもの脳は「経験」によって形成される——神経可塑性の基本
脳は経験によってつくられる
人間の脳は生まれた時点では完成しておらず、**生後の経験・環境との相互作用によって形成されていきます。これを「神経可塑性(ニューロプラスティシティ)」**といいます。
神経科学の重要な知見:「Neurons that fire together, wire together(一緒に活性化するニューロンは、一緒につながる)」——繰り返し経験されることが、脳の神経回路として固定されていきます。
幼少期の脳が特に影響を受けやすい理由
幼少期(0〜5歳特に、その後も思春期まで)は脳の発達が最も活発な時期です。
- シナプスの過剰産生と刈り込み: 幼少期に大量のシナプス(神経細胞間の接続)が産生され、使われるものは残り、使われないものは刈り込まれます
- ミエリン化の進行: 神経線維がミエリン(絶縁体)で覆われることで、信号伝達が速く・効率的になります
- 感受性期(Critical Period): 特定の機能が発達する「感受性の高い時期」があり、この時期の経験が特に大きな影響を与えます
良質な経験・安全な関係が脳の発達を促進する一方、慢性的なストレス・虐待は脳の発達に深刻な影響を与えます。
3. 慢性的なストレスが脳に与える影響——毒性ストレス(Toxic Stress)
ストレスの3段階
米国小児科学会(AAP)は子どものストレスを以下の3段階に分類しています。
ポジティブストレス: 短期間の軽いストレス(試験・初めての経験など)で、適切なサポートがあれば健全な発達の一部となります。
許容できるストレス(Tolerable Stress): より強いストレスですが、信頼できる大人のサポートがある状況では脳へのダメージが最小化されます。
毒性ストレス(Toxic Stress): 長期間・持続的なストレスで、支持的な関係がない状態で経験されるもの。虐待・ネグレクト・慢性的な家庭内暴力の目撃はこのカテゴリに該当します。
毒性ストレスが体と脳に与えるもの
毒性ストレスにさらされると、ストレス反応システム(HPA軸・交感神経系)が慢性的に活性化されます。
- コルチゾール(ストレスホルモン)が持続的に高い状態
- 炎症性サイトカインの持続的な産生
- 免疫機能の変化
- 脳の特定の部位への直接的な毒性作用
この毒性ストレスが、以下に述べる脳の各部位への永続的な影響を引き起こします。
4. 虐待が特に影響を与える脳の部位
研究によって、虐待を受けた子どもの脳では特定の部位に構造的・機能的な変化が生じることが明らかになっています。特に影響を受ける部位は以下の通りです。
| 脳部位 | 主な機能 | 虐待による影響 |
|---|---|---|
| 扁桃体 | 恐怖・不安・感情処理 | 過剰活性化・体積増加・過反応 |
| 海馬 | 記憶・学習・ストレス調節 | 体積縮小・新しい神経産生の減少 |
| 前頭前野 | 実行機能・判断・感情調節 | 発達の遅れ・機能低下 |
| 脳梁 | 左右半球の情報統合 | 体積縮小・情報伝達の障害 |
| 視覚野 | 視覚情報処理 | 家庭内暴力目撃で変化の報告 |
| 聴覚野 | 聴覚情報処理 | 言葉による暴力曝露で変化の報告 |
5. 【脳への影響①】扁桃体——恐怖・不安の過剰反応
扁桃体とは
扁桃体は**脳の「警報システム」**として機能し、危険を感知して「戦うか・逃げるか・固まるか(Fight-Flight-Freeze)」という反応を引き起こす部位です。
虐待による扁桃体への影響
虐待を受けた子どもの脳では、**扁桃体が過剰に活性化した状態(ハイパービジランス:超警戒状態)**が持続します。
脳科学的なメカニズム: 虐待環境では「危険を察知すること」が生存に必要なスキルです。扁桃体は繰り返される危険の経験から「常に警戒せよ」という信号を発し続けるように変化します。
実際の行動への影響:
- 些細な刺激に対して過剰に反応する: 少し大きな声・突然の動き・叱られると強いパニック・恐怖反応が生じる
- 常にビクビクしている・過剰に警戒する: 他の子どもなら気にしない状況でも強い不安反応が出る
- 「危険ではない状況」を「危険」と誤認する: 先生が少し怒ったたけで「また暴力が来る」と体が反応してしまう
- 安心できない: 安全な環境にいても「いつ危険が来るかわからない」という感覚が抜けない
この過剰反応は「わがまま」「反抗」ではなく、虐待環境への適応として脳が変化した結果です。
6. 【脳への影響②】海馬——記憶・学習への影響
海馬とは
海馬は記憶の形成・保存・検索に関わる部位で、ストレス調節にも重要な役割を果たします。また**新しい神経細胞を産生する(神経新生)**数少ない脳部位のひとつです。
虐待による海馬への影響
慢性的なコルチゾール(ストレスホルモン)の高値は海馬の神経細胞に毒性作用をもたらし、以下の変化が生じます。
①海馬の体積縮小 虐待を受けた成人・PTSD患者の脳画像研究で、海馬の体積縮小が一貫して報告されています。日本の友田明美先生らの研究でも、幼少期の虐待経験者における海馬体積の縮小が示されています。
②神経新生の抑制 慢性ストレスは海馬での新しい神経細胞の産生を抑制します。神経新生は学習・記憶・気分調節に重要なプロセスです。
実際の行動への影響:
- 記憶の形成・想起の困難: 学校の勉強が入りにくい・覚えたはずのことを忘れる
- 学習上の困難: 知的能力には問題がないのに学業成績が伸びにくい
- フラッシュバック: トラウマ的な記憶が制御なく想起されること(海馬の文脈処理障害)
- 解離: 圧倒的な記憶から心を守るための解離が生じやすくなる
7. 【脳への影響③】前頭前野——実行機能・感情調節への影響
前頭前野とは
前頭前野は「脳の司令塔」と呼ばれ、以下の高次機能を担います。
- 実行機能: 計画・判断・問題解決・衝動制御
- 感情調節: 扁桃体の過剰反応を抑制し、感情をコントロールする
- 作業記憶(ワーキングメモリ)
- 社会的判断: 他者の感情の読み取り・適切な行動の選択
虐待による前頭前野への影響
慢性的なストレス・コルチゾール高値は前頭前野の発達を阻害します。前頭前野は25歳頃まで発達途上であるため、幼少期〜思春期の虐待は特に深刻な影響をもたらします。
実際の行動への影響:
- 衝動制御の困難: 怒りが爆発する・行動を止められない
- 感情調節の困難: 感情が激しく揺れ動く・一度泣き始めると止まらない
- 問題解決能力の低下: 困難な状況で適切な対応策を考えられない
- 計画・見通しの困難: 先の見通しを立てて行動することが難しい
- 学習・集中の困難: 授業に集中できない・課題に取りかかれない
これらの症状はADHDと非常によく似て見えますが、背景が異なります。虐待・トラウマを背景とする実行機能の困難は「発達性トラウマ」として評価が必要です。
8. 【脳への影響④】脳梁——左右の脳の連携への影響
脳梁とは
脳梁は左右の大脳半球をつなぐ大きな神経線維の束で、左右の脳が情報を共有・統合するための「橋」です。
虐待による脳梁への影響
友田明美先生(福井大学)らの研究では、幼少期に言葉の暴力(暴言・言葉による虐待)にさらされた人の脳梁の一部(聴覚放射)が通常より大きく、その部分は平均よりも薄いことが示されています。これは、傷つく言葉から自分を守るための脳の適応と解釈されています。
また、性的虐待・ネグレクトを受けた人でも脳梁の体積縮小が報告されています。
実際への影響:
- 左右の脳(論理的思考と感情処理)の統合が困難になる
- 感情と言語の統合が難しくなる(「感情を言葉にできない」状態)
- 解離症状(右脳と左脳の体験が切り離される感覚)
9. 【脳への影響⑤】HPA軸——ストレスホルモン系の変化
HPA軸とは
**HPA軸(視床下部—下垂体—副腎皮質軸)**は、ストレスに対してコルチゾール(ストレスホルモン)を分泌するシステムです。
虐待によるHPA軸の変化
虐待を受けた子どもでは、HPA軸の機能が以下のように変化することが報告されています。
①慢性的なコルチゾール高値(急性期) 虐待が続いている間は、HPA軸が過剰に活性化してコルチゾールが慢性的に高い状態が続きます。
②HPA軸の鈍化(長期化・成人後) 長期的には逆にHPA軸の反応性が低下し、コルチゾールがストレス時に十分に反応しない「鈍化した」状態になることがあります。これがPTSD・うつ病の生理学的基盤のひとつです。
③エピジェネティックな変化 虐待によるストレスは、DNAのメチル化・ヒストン修飾などのエピジェネティックな変化を引き起こし、ストレス関連遺伝子の発現パターンを変化させます。これは単なる「心の傷」ではなく、遺伝子レベルでの変化を意味します。
10. 虐待のタイプ別に異なる脳への影響
友田明美先生らの研究(日本)を含む複数の神経科学的研究から、虐待のタイプによって特に影響を受ける脳部位が異なることが示されています。
| 虐待のタイプ | 特に影響を受ける脳部位 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 性的虐待 | 視覚野(一次・二次)・脳梁 | 視覚的な記憶・フラッシュバック |
| 言葉の暴力(暴言) | 聴覚野・脳梁(聴覚放射)・前頭前野 | 言語処理・感情調節 |
| 身体的虐待 | 扁桃体・海馬・前頭前野 | 恐怖反応・記憶・衝動制御 |
| ネグレクト(特に情緒的) | 前頭前野・海馬・脳梁 | 愛着・感情調節・学習 |
| 面前DV(暴力の目撃) | 視覚野 | 暴力場面の記憶処理 |
重要な発見:「子どもを叩かなくても言葉の暴力だけでも脳は変化する」「子どもの前でのDVは子どもの脳に影響を与える」——これらは日本の研究者が世界に示した重要な知見です。
11. 虐待が引き起こす精神疾患・発達への影響
発達性トラウマ(Developmental Trauma)
複雑性PTSD・発達性トラウマは、長期反復的な虐待・ネグレクト・複数のトラウマ体験によって生じる複雑な心理的影響を指します。単回の出来事によるPTSDとは異なる特別な病態です。
虐待と関連する主な精神疾患
PTSD(心的外傷後ストレス障害): フラッシュバック・回避行動・過覚醒・陰性感情が特徴。特に重症の虐待・性的虐待後に多い。
複雑性PTSD(C-PTSD): PTSDに加えて、感情調節困難・自己認識の歪み・対人関係の困難が加わる状態。長期的・反復的な虐待後に多い。
解離性障害: 圧倒的なトラウマ体験から自分を守るために意識が「切り離される」現象。解離性同一性障害(DID)を含む。
うつ病・気分障害: 虐待経験者は成人後のうつ病リスクが著明に高くなることが多くの研究で示されています。
不安症(PTSD以外): 全般性不安症・社交不安症・パニック症などのリスク増加。
反応性愛着障害(RAD): 極端なネグレクト・養育者の頻繁な交代によって生じる愛着の障害。
発達への影響: 認知発達の遅れ・言語発達の遅れ・学業成績の低下・社会性の発達困難。
12. 虐待を受けた子どもの行動・症状のパターン
虐待を受けた子どもが示す行動・症状は、周囲から「問題行動」「反抗」「わがまま」として誤解されやすいですが、それらはトラウマに対する脳と心の適応反応です。
過覚醒(ハイパービジランス)パターン
- 些細なことで激しく怒る・パニックになる
- 音・声・触れることへの過敏反応
- 眠れない・夜に怖い夢を見る
- 常に誰かが来るのを怯えているように見える
解離・回避パターン
- ぼーっとする・記憶が飛ぶ
- 強い感情を感じないように見える(感情の麻痺)
- 特定の場所・人・状況を強く避ける
- 「自分のことではないような感覚」
関係性のパターン
- 誰にでもなれなれしくする(警戒の欠如:脱抑制型)
- 大人・友達への強い不信感
- 見捨てられへの強い恐れ
- 親密な関係が怖い一方で依存が強い
行動化(Acting-out)パターン
- 自傷行為
- 衝動的な行動・暴力
- 危険な行動・自己破壊的な選択
- 物質使用(思春期以降)
13. 「愛着」と脳——安全な関係が脳を育てる
安全な愛着関係が脳に与える良い影響
脳科学は「傷つける関係が脳を変える」と同時に「安全な関係が脳を育てる」ことも示しています。
信頼できる養育者との**感受性の高い応答的な関係(センシティブ・レスポンシブネス)**は:
- コルチゾール反応を調節し、HPA軸を適切に機能させる
- 扁桃体の過剰活性化を抑制する
- 前頭前野の発達を促進する
- 海馬での神経新生を促進する
つまり**「トラウマを癒すのも人間関係であり・脳を育てるのも人間関係」**です。
オキシトシンの役割
「愛着ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、信頼できる人との接触・スキンシップ・安心できる関係で分泌されます。オキシトシンは扁桃体の過剰反応を抑制し、ストレス反応を和らげる作用を持ちます。安全な養育者との関係が、文字通り「脳を癒す」物質的な基盤を提供します。
14. 脳は回復できるのか——神経可塑性と回復の可能性
回復の可能性——神経可塑性は生涯続く
非常に重要なメッセージ:虐待による脳への影響は「永続的で不可逆的」ではありません。
神経可塑性(脳が経験によって変化する能力)は生涯にわたって続きます。特に子どもの脳は非常に可塑性が高く、適切な支援・安全な環境・治療的な関係によって脳の機能が回復することが研究で示されています。
回復を支える要因
①安全な環境の確保 虐待・ストレス源から子どもを保護し、安全な環境を提供することが最初かつ最重要のステップです。ストレス要因が続いている限り、脳の回復は困難です。
②感受性の高い養育者との安定した関係 信頼できる大人との安定した愛着関係が、脳の回復に最も重要な要因です。里親・養親・治療者との安定した関係が、脳の修復を促進します。
③早期介入 脳の可塑性は若いほど高いため、早期の介入・治療が有効です。しかし「早期でなければ回復できない」ということはなく、成人後も適切な治療で回復が可能です。
④運動 有酸素運動は海馬での神経新生を促進し、コルチゾールを低下させることが研究で示されています。スポーツ・身体活動がトラウマ回復に効果的な理由のひとつです。
⑤十分な睡眠 睡眠中に脳の修復・記憶の整理が行われます。安全な環境での十分な睡眠が回復を支えます。
15. 回復を支える治療・支援アプローチ
トラウマインフォームドケア(TIC)
**「トラウマを知ったうえで関わる」**アプローチです。子どもの問題行動の背景にトラウマがある可能性を常に念頭に置き、「なぜこの子はこんな行動をするのか(Why)」ではなく「この子に何が起きたのか(What happened)」という視点で関わります。
TF-CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法)
虐待を受けた子どもとその保護者に対して、最もエビデンスが確立した心理療法のひとつです。トラウマ記憶の処理・感情調節スキルの習得・認知の修正・保護者へのサポートを組み合わせます。
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
眼球運動などの左右交互刺激を用いてトラウマ記憶を処理する治療法で、PTSDへの効果が広く示されています。脳の両半球を交互に刺激することで、統合されていない記憶の処理を促します。
愛着に基づくアプローチ
虐待によって傷ついた愛着を修復するための治療的な関係の提供。里親支援・親子関係プログラム(PCIT)・ダイアディック・デベロップメンタル・サイコセラピー(DDP)など。
薬物療法
トラウマ関連疾患(PTSD・うつ病・不安症)への薬物療法(SSRI・睡眠薬等)が補助的に使用されます。薬は症状のコントロールを助けますが、トラウマそのものの治療は心理療法が中心です。
ソマティック・アプローチ(身体を使ったアプローチ)
トラウマは「言語記憶」だけでなく「身体の記憶」としても保存されます。ヨガ・ボディスキャン・ソマティック・エクスペリエンシングなど、身体感覚を通じたアプローチが補助的に用いられます。
16. 保護者・支援者ができること
「問題行動」をトラウマの視点で理解し直す
虐待を受けた子どもが示す「問題行動」は、「悪意」「反抗」「わがまま」ではなく、**「生きのびるための脳の適応」**です。この視点の転換が支援の出発点です。
「この子は何で私を困らせるのか」→「この子に何が起きたのか」
安全・安心・予測可能な環境を提供する
虐待を受けた脳は「何が起きるかわからない環境」に非常に強く反応します。
- 一貫した日課・ルーティン: 「今日も同じことが起きる」という予測可能性が安心感を育てます
- 安定した人間関係: 同じ支援者・養育者が継続して関わることが重要
- 静かで安全な環境: 突然の大きな音・予測できない変化を最小化する
修復的な関わり——「つながり直す」
完璧な対応を求める必要はありません。関係が傷ついたとき(怒りすぎた・対応を誤った)に**「気づいて・謝って・つながり直す」**プロセスそのものが、脳の修復を助けます。
自分自身のケアを忘れない
虐待を受けた子どもを支援することは、支援者自身にも大きな感情的負荷をもたらします(二次的外傷性ストレス・共感疲労)。支援者・養育者自身のメンタルヘルスのケアが、持続的な支援を可能にします。
17. よくある質問(FAQ)
Q. 虐待を受けた子どもの脳は、元に戻りますか?
A. 完全に「元通り」になるかどうかは個人差がありますが、**適切な支援・安全な環境・治療的な関係によって脳の機能は回復する可能性があります。**神経可塑性は生涯続くため、「手遅れ」ということはありません。特に早期の安全な環境の確保と適切な治療的関係の提供が回復の鍵です。
Q. 親が虐待をやめれば脳は回復しますか?
A. 虐待が終わることは回復の大前提ですが、それだけでは不十分なことがあります。特に長期的な虐待・複雑なトラウマの場合は、専門的な心理療法・安全な養育者との安定した関係など、積極的な回復支援が必要です。
Q. 「面前DV(子どもの前でのDV)」も脳に影響しますか?
A. はい。面前DVは日本の法律でも「心理的虐待」として定義されており、神経科学的研究でも子どもの脳(特に視覚野)に影響を与えることが示されています。暴力を「見る」「聞く」だけでも、深刻な影響をもたらします。
Q. 自分が子ども時代に虐待を受けました。大人になっても回復できますか?
A. はい。成人後も適切な心理療法(TF-CBT・EMDR・その他のトラウマ治療)によって回復が可能です。「時間が経てば癒える」という受動的な回復より、適切な治療を受けることで回復が促進されます。勇気を出して専門家に相談してください。
Q. 虐待かどうかわからない「しつけ」との境界線は?
A. 「しつけ」であっても、子どもに恐怖・強い苦痛・屈辱を与える行為は虐待に該当する可能性があります。「叩かなくても言葉の暴力で脳は変化する」という研究知見が示すように、身体的な暴力がなくても心理的・感情的な影響は深刻です。「これって虐待?」と迷ったら、専門家(児童相談所・児童精神科)に相談することをお勧めします。
18. 和光医院での診療について
名古屋市千種区にある和光医院は、児童精神科を専門とするクリニックです。虐待・トラウマを背景とする子どもの精神的健康・発達の問題に専門的に対応しています。
当院が大切にしていること
「この子は何で問題を起こすのか」ではなく「この子に何が起きたのか」というトラウマインフォームドな視点で、子どもと保護者を支援することを大切にしています。
当院での対応内容
- 虐待・トラウマ体験のある子どもの精神医学的評価・診断
- PTSD・複雑性PTSD・発達性トラウマの評価・治療
- ASD・ADHD等発達特性との合併評価(発達特性とトラウマの鑑別)
- TF-CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法)
- 薬物療法(SSRI・睡眠薬等の補助的使用)
- 保護者・里親・養親への心理教育・サポート
- 学校・児童相談所・支援機関との連携
- 虐待の早期発見・通告サポート
こんな方はぜひご相談ください
- 虐待を受けた経験のある子どもの支援に関わっている
- 子どもの問題行動の背景にトラウマがあるか評価してほしい
- 里親・養親として虐待を受けた子どもを養育している
- PTSDの症状(フラッシュバック・解離・過覚醒)が疑われる
- 「しつけ」と「虐待」の境界線について相談したい
- 自分が子ども時代に虐待を受け、その影響が心配
- 虐待による脳への影響について詳しく知りたい
どうかひとりで抱え込まないでください。「もしかして虐待かも」「子どもの症状が心配」という段階でご相談ください。早期の相談・支援が子どもの脳と心の回復につながります。
まとめ
- 虐待は「心の傷」にとどまらず、子どもの脳の構造・機能を物理的に変化させます
- 特に扁桃体(恐怖・不安の過剰反応)・海馬(記憶・学習)・前頭前野(感情調節・実行機能)・脳梁(左右の連携)・HPA軸(ストレスホルモン系)に影響を与えます
- 虐待のタイプによって特に影響を受ける脳部位が異なります(言葉の暴力も脳を変えます)
- 子どもの「問題行動」はトラウマへの脳の適応反応であり、「反抗」「わがまま」ではありません
- 神経可塑性は生涯続くため、適切な支援・安全な環境・治療的関係によって脳は回復できます
- 回復の最重要要因は「安全な環境」と「信頼できる安定した人間関係」です
- TF-CBT・EMDR等のエビデンスに基づくトラウマ治療が回復を促進します
- 「子どもに何が起きたのか(What happened)」という視点が支援の出発点です
和光医院(名古屋市千種区)児童精神科専門クリニック お問い合わせ・ご予約はお電話またはウェブ予約にて承っております。
参考文献・参考情報: 友田明美(2018)「子どもの脳を傷つける親たち」NHK出版新書 National Child Traumatic Stress Network(NCTSN):https://www.nctsn.org Harvard Center on the Developing Child:https://developingchild.harvard.edu
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- 一般名による処方について:後発医薬品が存在する場合は、商品名ではなく一般名(有効成分名)で処方することがあります。
- 医療情報の活用について:当院では、安心な医療を提供する為、オンライン資格確認や電子処方箋データ等の情報を活用して診療を行っています。